花紀行*食べられる花を求めて |
*アーティチョーク編 |
「なんだか見たこともない野菜が畑一面に栽培されているんだけど、何かしらね。ボールのように丸くて、色は緑、うろこのようなものがいっぱいついているんだけど。」 こんな電話のやり取りから、一体それが何であるか確かめるべく愛知県某所にやってきたのです。アーティチョークはヨーロッパやアメリカでは広く知られている食材ですが日本での知名度はまだまだ低く、まして商業ベースで栽培されているとは考えにくかったのです。 *こうみえても歴史ある食材です。 つぼみの時の苞片と花托部分が食用になるため、開花前に採取します。調理前の下処理として、蕚の先のとげをキッチン鋏で切り取ります(とげのない種類のものはそのままで大丈夫)。それを大きな鍋で40〜50分ほど茹でれば、出来上がりです。その際、塩、オリーブオイル、ニンニク、赤トウガラシ、白ワインなどを一緒に入れると、こくが出たり、風味がついて美味しいです。灰汁が強く茹で汁は黒くなってしまいますが、おいしさは変わりません。 *ワイルドに食べる上品な味。 食べられない部分の多い蕚を一枚はずしてはドレッシングをつけ、根元を歯でしごいて食べ、またしごいては食べてと繰り返してきたのは、すべてここ、アーティチョークハートに辿り着くため。 労力の割には実りが少ないと心の中でふつふつ沸き上がる不満な思いをくすぶらせながらも、なんとかここまですすめてきたのは、作業の最後に、この至福の時が待ち受けているからなのです。 一口アーティチョークハートを口に含めば、もどかしい手続きも全て報われ、ここまでの道のりの面 倒臭さも一瞬にしてデリート。脳にインプットされたアーティチョークの味は折にふれ味蕾が思い出し、なかなか手に入らないアーティチョークを求めるようになるのです。 ナイフやフォークを使わずに両手の指で直接触れて食べることを許されているのも嬉しいじゃありませんか。原始的本能が刺激されます。きれいに積み上げられたおもちゃのブロックを崩していく楽しさに通 じますね。風味はというと、そのワイルドな食べ方に似合わず、ほくほくとしたマメのようなイモのような食感に、大人だけがわかる、奥底からほんのり苦味が漏れ出る感じの上品な味です。 *古代ローマ人もハマッたおいしさ。 小さいものは蕚を全部とり、アーティチョークハートだけを使います。瓶詰めになっているのはこの小さめのものです。オイルやビネガーに漬けられているのでそのままオードブルやサラダに利用できます。 *江戸時代の日本人もグルメでした。 当時は観賞用として人気があったようですが、江戸後期の「草木図説」には、花床や蕚片が食べられるという外人の弁が記されていたということですからきっとオランダ人と一緒に仲良く宴会でも開いて舌鼓を打っていたのでしょう。 *ローカロリーで栄養満点。 *まだまだ少ない国産品。 車を止めてモンシロチョウが案内する方へよってみるとまさに今が収穫時期です。しかも食べたことのない紫色のアーティチョークもありました。蕚にも葉にも鋭いとげがあります。すでにお昼をまわっており、あたりに誰もいなかったので翌朝出直すことにしました。 次の日、9時に到着すると、数人の男性が、手頃な大きさに成長したアーティチョークを、つぼみの下20cmほどのところからカットしては荷車に積み込んでいました。 責任者の方にお話を伺いました。 ---アーティチョークの栽培は珍しいですね。 ---違う種類のものがあるようですが。 ---まだ日本では数も少なく家庭用としてはなかなか手に入りにくい素材です。 ---ありがとうございました。 しばらくして知人から連絡がありました。収穫されずにいたつぼみに、今はきれいな花が畑いっぱいに咲いていると。 text/photo by t.kuki
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第1弾:バナナフラワーを読む。
第3弾:南フランスの香り〜花のアロマ編を読む。 |