花紀行*南仏プロヴァンスの花便り
 

*グラース編


ダマスクローズ ♪【花の女王

 5月はヨーロッパもバラの季節。この時期のバラ園はとても忙しく、そして1年のうちで最も美しい光景を見せてくれます。

 ローズウォーターやローズオットー、香水の原料となる豊かな香りの香料が採取されるのはブルガリアやペルシャ(イラン)、サウジアラビア、トルコなどで栽培されているダマスクローズと、フランスやモロッコ、チュニジアで栽培されているセンティフォーリアローズがあります。花を咲かせるのは1年のうちのワンシーズンだけ、たった40日ほどの短い期間に限られています。

 ♪【グラースの街
 高級ホテル郡が立ち並ぶ南フランスのリゾート地、コートダジュールの中心をなすニースから内陸に1時間ほど車を走らせると、香水の都として名高いグラースに到着します。海抜が500メートルに達するこの街は16世紀から皮革製品の製造で大きな繁栄を誇っていましたが、それを支えたのが、皮の匂いを消すのに必要な香料となる花の栽培と調香の技術でした。

あやめ&えにしだ バラやラベンダー、ジャスミン、エニシダ(右の写 真の金色の花です)、スミレといった香り高い花が1年中育てられ、それらの香料を調香師が配合し皮に香りをつけます。そして、外国から輸入された麝香や流涎香(ムスクやアンバー)などの動物性原料やスパイスも加わって、香りはさらに奥深く洗練されたものに成長し、グラースの香水はますます人々を魅了していきました。

 18世紀になると皮革製品の多くは製造をイタリアやポルトガルに移したのですが、花の栽培はそのまま保護されたため、香水は地場産業として本格的な発展を遂げ、現在に至っています。一流の調香師はなんと3000種類もの香りの違いを嗅ぎ分けるそうです。つまりそれだけの香りを識別 できなければ一流ではないということで、これは努力や訓練をすれば誰でもなれる訳ではなく、もって生まれた天性に負うところが非常に大きいということです。そうでしょうとも!

グラースの街 グラースに到着した日の夜、旧市街のレストランで夕食を済ませホテルへ歩いて戻る時、ふと気付くと、どこからともなくそよとした風にのって花の良い香りが漂ってくるではありませんか。夜になると香りを放つというジャスミンでしょうか。それとも車の往来が激しい昼間の空気のなかでは感じられなかった香りが、夜気に映えているのでしょうか。自然の大きなアロマセラピーを受けているようで、ホテルへ戻る道を少し遠回りしたのですが、ずっととぎれることなく香りは続き、今まさに自分がいるのは香りの首都なのだと実感しました。

バラ園 ♪【満開のバラ園
 グラースにあるバラ園を訪ねてきました。
日本では栽培されていないダマスクローズもセンティフォーリアローズも満開で、顔を寄せると甘くいい香りがし、本当に幸せな気分になりました。

 ここではすべてが無農薬栽培なので、自家製ローズジャムも生産されており、センティフォーリアの花びらが舞う淡いピンク色のジャムは透明なビンの中で輝くクリスタルのようでした。食べてみると、口の中で香りが広がり、食べ終わった後も自分がバラの呼吸をしているようでとても楽しい(?)ジャムでした。

バラ園の女性 バラ園はちょうど花摘みの時間で、この地方独特のソレイヤードとよばれる生地で作られた大きな袋を腰に下げ、数人の女性が慣れた手つきで花を傷めないよう丁寧に一輪づつ手折っては、袋の中に詰めていました。

 水蒸気蒸留法で精油を採取するダマスクローズは日が昇るにつれ、精油の含有量 が半分以下に減少してしまうため、花の摘取りは時間との競争になり、通常は早朝から行われ、お昼前には終了します。このバラ園では主にセンティフォーリアローズが栽培されていますが、摘取りはいつもお昼過ぎから夕方の5時頃までということでした。

 ♪【プロヴァンスのシンボル】
 標高1,000mの山に登り、自生ラベンダーも見てきました(一般 の摘取りは禁止 区域です)。ラベンダーの季節には少し早かったようで、葉は茂っていましたが 紫の固いつぼみがひとつふたつついているだけで満開になるにはまだ一月ほどかかる状態でした

 遠くには頂上に雪を抱いたアルプスの端が覗き、人の手がはいらない自然のままの環境で育ったラベンダーの力を、人は何千年も前からオイルを作って体のマッサージをしたり、煎じてお茶にしたりして生活に取り入れてきたのですね。この変わらぬ 雄大な景色の中でラベンダーは毎年花をつけ、私たちは古人がしていたであろう同じ方法で病気の予防や怪我の治療、リフレッシュやリラックスのためこの花の恩恵を授かるのです

次回はマルシェ編をお届けします。
text/photo by t.kuki

 

 

 

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第1弾:バナナフラワーを読む。
第2弾:
アーティチョークを読む。

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